【ジャンル:アドベンチャー】
【発売元:セガ】
【発売日:2006年4月27日】
【定価:4,800円】
人生をやり直しまくろう!!
チュンソフトは偉大なメーカーである。
ローグライクを発展させた“不思議のダンジョン”や
アドベンチャーゲームに新風を吹き込んだ“サウンドノベル”を
世に送り出した功績は大きい。
本作はサウンドノベルのなかでも根強い人気を誇るセガサターンソフト
『サウンドノベル 街 -machi-』のシステムを一部変更して新要素を追加した
プレイステーションソフト『街 〜運命の交差点〜』に
さらに追加要素を加えたものだ。
ゲーム内容は渋谷を舞台に8人の主人公が
複雑に絡み合うアドベンチャーゲームで、一見ゆるい選択肢でも
ほかの主人公に大きな影響を及ぼすこともあるのがおもしろい。
主人公たちがそれぞれの修羅場をかいくぐれるように導いていこう!
ただ、「なんでそうなるの?」と言いたくなるバッドエンド*1を収集するのも
本作の醍醐味なので失敗も楽しんでほしい。
では、ここからは各主人公とストーリーを紹介していく。
“オタク刑事走る!”は、渋谷中央署の刑事である雨宮桂馬が
オーロラビジョンに映った謎のメッセージを爆破予告だと断定し、
渋谷中を駆けずり回って捜査に心血を注ぐ熱い刑事ドラマだ。
チュンソフト創業者である中村光一氏や
『南国少年パプワくん』で知られるマンガ家の柴田亜美氏も登場するので
探してみよう!
“The wrong man 牛”は、ヤクザから足を洗った牛尾政美が意中の女性に
プロポーズをしようと宝石店に行くが、そこで元舎弟が宝石強盗を働き、
共犯者と間違われる。間違いは続き、逃走した先で自分と瓜二つの役者の
馬部甚太郎として迎えられ、一時しのぎのため芝居をする羽目になってしまう
任侠コメディだ。
“The wrong man 馬”は、“The wrong man 牛”と対偶になるシナリオで
売れない役者の馬部甚太郎のもとにヤクザの親分という大役が舞い込んできたが、
逃走中のマジモンの元ヤクザである牛尾政美と間違えられたため、
絶対にNGが許されない環境で牛尾を演じなければならなくなった
不運な三流役者のペーソスが笑いを誘うドタバタコメディである。
“七曜会”は、凡庸な大学4年生である篠田正志が父のコネで大手家電メーカーに
就職が決まり喜んでいた矢先、“日曜日”と名乗る謎の美女に
内定取り消しになるような事実を突きつけられ脅迫されるところからはじまる。
やがて正志も“七曜会”の構成員、“金曜日”となり“日曜日”の命令どおり
他人を脅迫し、次第にその快感に目覚めていくが――。
“シュレディンガーの手”は、テレビドラマのプロットライターとして
一定の地位を得ている市川文靖(演:ダンカン)が主人公。
彼が書く作品は大衆には評価されているが、その内容は低俗で自分が
寝ているあいだに“誰か”に書き起こされた身に覚えのないものだった。
ノイローゼ気味の市川は、作家としての良心を守るため、
そしてテレビ業界に一石を投じるため、最高傑作を書こうと机に向かうのだった。
このシナリオはサイコスリラー色が強く、心臓に悪い場面もあるので
苦手な人は注意してくれ!
“で・き・ちゃっ・た”は、緑山学院高校一の人気者でアイドル顔負けのモテ男、
飛沢陽平を主人公に据えたラブコメだ。
いつものようにプレイボーイを謳歌していた陽平は女性に呼び出され、
「あなたの子どもを妊娠した」と告げられる。さらにその直後、陽平の子どもを
出産したという女性も現れ、色男の顔は青ざめていくのだった。
序盤はまだ「うらやましいな、この野郎!」と嫉妬するような内容だが、
中盤以降は胃潰瘍まっしぐらの惨憺たる有様に
思わず陽平に同情してしまうだろう。まあ、自業自得だけどね!
“迷える外人部隊”は、フランス外人部隊に身を置く高峰隆士が
3年ぶりに日本に帰国し、戦場での記憶のフラッシュバックや
街の喧騒に苛立ちを覚えながらも、自分の存在意義を見つけるために
渋谷を徘徊するハードボイルドなシナリオである。
なお、このシナリオと密接な関係にある隠しシナリオは落涙を保証する。
“やせるおもい”は、人並み外れた異常な食欲の小太りな女の子、
細井美子(演:伊藤さおり)が恋人とケーキ屋に行き、
そこでの食べっぷりを見た彼氏についに愛想を尽かされ、
別れ話を持ちかけられたのを機に無茶なダイエットを敢行する
乙女心揺れまくりの純愛ストーリーだ。
この先は隠しシナリオについて言及するので、
ネタバレしたくない人は見ないでね。
隠しシナリオの1つである“青ムシ抄”は、
飛沢陽平と同じ高校に通うオタク高校生・青井則生の物語。
人気者の陽平とは正反対の嫌われ者の則生は学生生活のかたわら、
エゲレス書院が発行している出版コードギリギリの
成人マンガ雑誌“ドエロH2”で活躍するエロマンガ家でもあり、
趣味は盗撮の変態である。
コンプライアンスでがんじがらめになっている現代社会に
真っ向勝負を挑むかのようなキャラクター設定には非常に好感が持てる。
また、このシナリオのみ実写ではなく同人アニメのようなタッチで描かれ、
往年のパロディがちりばめられており、90'sオタクのバイブル的作品に
仕上がっていると感じた。
ほかのシナリオよりも下劣(褒め言葉)なテキストも爆笑もので、
なにより“ドエロH2”の副編集長、エンペラー黒川が最低で最悪で最高なのだ。
『街 ~運命の交差点~』での俺の推しは、エンペラー黒川こと黒川イタチに決定!
『428~封鎖された渋谷で~』の推しは御法川実だったから、
俺はどうも傍若無人だけど信念を貫き通すキャラクターに弱いのかもしれん。
ちなみにサントラには『ピンクなCD 青ムシSHOW』という8センチCDが
付属しており、“無敵美少女セーラードールズ”のスペシャルドラマが
収録されているからファンなら要チェックなノデ!
さらにPSP版では、2つの秘蔵シナリオが追加されている。
1つはドラマの制作会社で助監督として四苦八苦しながら働いている
脚本家志望の青年、サギ山勇を主人公にしたシナリオ。
なんと、このサギ山を演じているのは当時“ヨースケ”名義で活動し、
のちにブレイクした窪塚洋介氏だ。
そして、もう1つのシナリオは米軍大佐で宇宙飛行士で
イギリス王室とロマノフ朝の血を引く貴族でCIAに追われている*2
謎のうさんくさい男、パトリック・ダンディが主人公のシナリオだ。
このシナリオは先に発売されていた『第Qの男 〜QはquestionのQ〜』という
ラジオドラマ(のちにドラマCD化)をベースにしている。
2014年に設立30周年を迎えた際のファミ通.comの記事。中村光一氏へのロングインタビューだ。
サウンドノベルとして傑作なのはもちろん、
当時の渋谷の風景が多く記録されているので資料的な価値もあるゲームだと思う。
実写作品であるがゆえに見た目の古臭さが悪目立ちし、
いまとなっては手に取りづらいと感じる人もいるだろうが、
どうかこの“人間讃歌”を体験してほしいものだ。
【9点】