【公開日:2003年11月8日】
ちょっと臭う、クリスマスの奇跡
大晦日の夜、地上波のお笑い番組に食傷気味になったころ、
Netflixで本作を視聴した。
かくして、年の瀬に今敏デビューを果たした俺の感想はいかがなものか。
本作は『パーフェクトブルー』『千年女優』『パプリカ』で知られる
今敏監督による作品である。宮崎駿監督が天才なら今敏監督は、
奇才とか鬼才といった雰囲気をまとっているような気がするし、
発表している作品も一癖も二癖もある作品ばかりのように思える。
そんな印象があったから少し構えて視聴に励んだのだが、
ハッピーエンドのままエンドロールが流れたので、一安心したのだった。
ストーリーは、クリスマスの夜に3人のホームレスが
ゴミ捨て場で赤ちゃんを拾い、わずかな手がかりを頼りにその赤ちゃんを
親元へ返そうと東京の街を奔走するコメディである。
ホームレスの3人は、自称・元競輪選手のギン(CV:江守徹)、
元ドラァグクイーンのハナ(CV:梅垣義明)、
家出少女のミユキ(CV:岡本綾)といった個性的な顔ぶれ。
ホームレスになった経緯は三者三様で、
ギンはギャンブルによる借金のために家族を残してホームレスに、
ハナは彼氏と死に別れたことで生活力を失いホームレスに、
ミユキは飼い猫を捨てられたと勘違いして、口論の末に父親を刺し、
そのまま家を飛び出してホームレスに――。
この3人に共通するのは家を失ったことではない。
“所在”を失ったのだ。人生最大の買い物が住居の購入であれば、
人生最大の損失は住居を失うことだろう。
生活の拠点である家を失うことは多くの人にとって絶望でしかない。
しかし、それ以上に大きい損失、いや喪失は最愛の人との分断であろう。
死別であれば、言わずもがなだ。
この映画は、そんな3人が奇跡という名の偶然を味方につけ、
それぞれの“所在”を取り戻す話だと感じた。
全体的に暗いトーンの映画ではあるが、
心をほっこりとさせてくれる快作なので、
クリスマスから年末年始にかけての視聴を激しく推していきたい。
最後にお詫び、この映画は前々から気になっていたんだけど、
鑑賞するまで“東京ゴッドファーザー”だと勘違いしていたのね。
“ズ”を忘れちゃう人、けっこう多いと思うから、みんなも気をつけて!